55歳からのハローライフ
こんにちは、まるぞーです。
今日は村上龍さんの、「55歳からのハローライフ」について書きたいと思います。
この本を読んだのは、もうだいぶ前ですが、最近また読み直してみました。
何しろタイトルからして、私にドンピシャリなので、見た瞬間から読みたくなった本です。
内容は、5つの中編小説からなる小説集ですが、どの話も同じテーマで、55歳前後の中高年が、早期退職を機にして、セカンドライフを模索するといったものです。
ただし、主人公の階層は様々で、富裕層から中間層、そして貧困層の様々な立場の人が描かれています。
富裕層といっても、飛び抜けた大金持ちではなく、55歳まで大企業に勤めた、妻子、家持の普通のサラリーマンです。
どの階層の人も、ここに描かれる主人公たちは、みんなどこにでもいる、いわゆる普通の人たちなのです。
ですから、どの話もとてもリアリティーがあります。村上龍さんの作品としては、むしろ珍しい種類の作品だと思います。
例えば富裕層にしても、お金の問題と向き合うことになりますが、貧困層にとってはお金がまさに死活問題です。
やめたくて仕事を辞めた人もいれば、リストラに遭う人もいます。そして皆に共通しているのは、お金だけでなく、人との関係が問題になっているということです。
例えば夫婦関係であったり、自分の居場所が見つからなかったり、孤独と向き合わねばならないなどの問題が生じますが、皆仕事を失ってからの自分の生き方を模索しています。
一言で言えばテーマは、仕事を失った後の新しい人間関係を、いかにして築くかということだと言えます。
結局人間関係なくしては、人は生きてはいけないということかもしれません。
それがとても現実的で、どんどん物語の中に入り込んで、一気に読んでしまいました。
作者自身があとがきで語っているように、キーワードは「信頼」です。仕事を離れたとき初めて、信頼関係を築くということがいかに大切であるかを思い知るわけですが、これが難しく、悩みもがく姿が本当に身につまされます。
私にとっても信頼とはとても難しい問題です。
5つの物語の中で、一番身につまされたのは、やはり貧困層を描いた作品です。
主人公が中学時代の同級生に会い、その同級生が病気でホームレスになり、最後は死んでしまうのですが、そこでの主人公との関わりや、最後に母親に会えずに終わってしまうストーリーは、妙に生々しく、涙がこぼれてしまいました。
ほんとに村上龍さんにしては珍しい作品集です。こういった階層に人たちは、龍さんの身の回りにはあまりいなさそうな気もしますが、きっとすごく取材されたのでしょう。とてもリアルに描かれていました。読後には、なぜか満足感とともに、妙な安心感がありました。
それではまた。